狼の星座 著:横山光輝
「馬賊」・・・第一次世界大戦後の中国、広い大陸には山賊や匪賊が溢れ、それらからの
略奪行為を警察や軍隊では防ぎきれていませんでした。
そこで村々は自衛手段として、自警隊と手を結んでいました。日本人はその組織を
「馬賊」と呼んでいたのです。
彼らはその呼び名通り馬を良く御して大地を駈け、そして拳銃の名手揃いでもありました。

日本の新潟に生まれた大日向健作は、祈祷師に「大盗賊になる相がある」と出生の際に
言われていました。
少年の頃から彼は中国大陸に漠然とした憧れを抱いて育ち、大陸へと渡るためにひたす
らに働き、資金を貯めていきます。
そしてついに大陸に足を踏み入れてからが、その波乱極まる人生の始まりでした。
彼はそこで馬賊に出会い、仲間を得て、争いに生き、恋を知り、罪に苛まれ、そして己の
生きる使命を再確認して、また生きていきます。
『狼の星座』は、特殊な時代の中国大陸に生きた日本人の人間ドラマと言う一作です。

またこの大日向健作にはモデルとなった実在の人物がいたと言う事で、「馬賊戦記」と言う
朽木寒三の手による伝奇小説の主人公・小日向白朗がその人物です。


戦国獅子伝 著:横山光輝
原作:辻真先 漫画:横山光輝 という最強タッグによる一作、それがこの戦国獅子伝です。
時代は戦国時代(紀元前340年頃のようです)。
その武勇から「鬼王」と近隣国から恐れられる斉国の烈公、そしてその一子・文竜こそが
この物語の主人公です。

物語は鬼王が呪術師・怨黒雲を人心を惑わすものと判断し、腐刑(去勢する刑)に処した事
から始まります。
屈辱を受けた怨黒雲は鬼王を呪い殺すと言って消え、事実それから鬼王の精力は日に日に
衰えていくのでした。
そんな折、鬼王は文竜と自分の妾が姦通しているのを目撃します。
激昂した鬼王は文竜を死罪にしようとしますが、逆に鬼王を斬り、国外へ亡命していきます。
こうして不忠不孝の汚名を着たまま天下に出た文竜と、世を乱し大陸を我が手にしようと
目論む怨黒雲とが対決していくことになるのですが・・・・・。

と言うのが、物語の始まりです。
しかしこの漫画、あくまで主人公は文竜ですが、実に多くの人間たちの物語でもあります。
文竜を兄と慕う朴訥な豪傑・武虎、狡猾ながらどこか憎めない酔拳使い・朱豹、薄幸可憐
なる少女・玉燕と言った副主人公たちとともに、男女の恋愛や悲哀あり、武侠物のような
活劇あり、権力者の苦悩・変欲あり、農民の苦衷あり、武人の尊い死に様あり・・・と笑い
以外の要素は何でも詰め込まれていますが、その中でも軍隊や兵士の残虐さを筆頭に、
人間の醜い部分や欲望などが最も描かれているように感じました。(SMや死姦などがあった
のは正直オドロキでした。)

まぁ、こうやって書いてるのを読んでもらってると「ちょっとなぁ」と引く方もいるかもしれません
が伊谷的にはこの戦国獅子伝かなりオススメです。

また孫ピン・ホウ涓・聶政などの史記中の有名な人物もゲストで出ています。


史記 著:横山光輝
タイトルからもわかるように司馬遷の手による史記を、巨匠・横山光輝が漫画化したのが
この作品。
ただ全15巻(ビッグゴールドコミック版)から成るこの作品、長編作では無く、短編の連作
とでも言いましょうか、1冊に3〜4話が収録されており毎回違った人物やエピソードが
紹介されている形になっております。

なので1巻・2巻と読んでいく必要は無く、気になったエピソード・人物があればそこから
読んでいって構いません。
ではここで各巻の収録内容を紹介しておきます。
1巻
 「司馬遷」 まずはやはり史記の作者・司馬遷
 「名宰相・管仲」 斉の桓公に仕えた管仲
 「驪姫の陰謀」 晋の献公の側室・驪姫を中心とした後継騒動
 「漂白の覇者・文公」 前回の驪姫の続きで、国外に亡命した文公こと重耳の物語
2巻
 「復讐の鬼」 父と兄の仇・楚への怒りを胸に呉へ亡命した伍子胥、前後編
 「臥薪嘗胆」 越を攻めた呉王・夫差と、亡国の憂き目に遭った越王・句践それぞれの復讐
 「呉の滅亡」 伍子胥の死後、越からの圧力により滅亡へと向かう呉国
3巻
 「因習打破」 黄河の氾濫を鎮める為の奉納金や生贄といった悪習に立ち向かう西門豹
 「改革者の悲劇」 孫子と並び称される兵法家、魏と楚に仕えた男・呉起
 「孫子の兵法」 世界史上でもトップクラスの高名な兵法家、孫武とその子孫の孫ピン
 「業因強国策」 秦国に礼治ではなく法治を徹底させた学者・商鞅
4巻
 「先從隗始」 ‘隗より始めよ’で有名な燕の郭隗と、名将・楽毅
 「奇謀詭策」 時に味方、時に敵を欺き城を守りぬいた智謀の士・田単
 「食客三千」 盗みの名人や物真似の名人までも食客にしていた斉の孟嘗君
5巻
 「刎頚の友」 大国・秦の脅威の前に趙の藺相如と廉頗はわだかまりを解き友となる
 「長平の大合戦」 戦国時代最大の合戦と言われる長平の戦い、秦の白起と趙の趙括
 「便所の屈辱」 魏で受けた屈辱を忘れず秦に走り宰相にまで出世した范雎
6巻
 「嚢中の錐」 趙の平原君と、その食客・毛遂、そして下役人の李同。趙を守った者たち
 「老いの野望」 戦国時代の名士の一人である楚の春申君の生涯
 「主を震わす者」 戦国四君のうち最も才気溢れたと言われる魏の信陵君
 「奇貨居くべし」 趙の人質であった秦の公子・子楚に投資し大出世をした商人・呂不韋
7巻
 「ロウアイの乱」 呂不韋の妾から子楚の妃になった女は好色さから大乱を引き起こす
 「我れ鳥獣にあらず」 ‘性悪説’を唱える荀子のもとで学んだ李斯と韓非
 「刺客荊軻」 あまりに有名なエピソード‘秦王(始皇帝)暗殺’、その一幕
8巻
 「保身の術」 秦の老将・王翦は抜群の功績を立てながらも保身を心得え名声を輝かせる
 「始皇帝」 秦王は天下統一を為し始皇帝を名乗る、そして不老不死を望むが・・・前後編
 「趙高の陰謀」 始皇帝死後、趙高は遺言を偽り自分の傀儡となる公子を立て粛清を行う
9巻
 「農民王陳勝」 秦の圧政に苦しむ農民たちは陳勝に率いられついに蜂起する。
 「項羽立つ」 陳勝の蜂起に続き各地で反秦の兵が起こり、項羽と項梁も世に出る
 「劉邦亭長」 豪胆な下級役人・劉邦は不思議な人望で反秦の一群を率いる事になる
 「馬と鹿」 趙高の朝廷内での権力はますます高まる一方、しかし不満とする者も多く・・・
10巻
 「函谷関への道」 楚軍の項梁が戦死。また秦では宮中の陰謀が章邯らの身に・・・
 「関中一番乗り」 楚の別部隊・劉邦軍のもとに彭越・レキ食其・張良ら人士が集まる
 「鴻門の会」 秦の首都入りを果たした劉邦、そこに項羽率いる大軍も到着し一触即発に
 「咸陽炎上」 強引に秦都に居座った項羽は、秦宮を焼き払い、論功行賞を行う
11巻
 「国士無双」 大志を抱く天才・韓信は楚では重用されぬと悟り、漢へ走る。
 「壊れた友情」 張耳と陳余は相手の為なら命も投げ出すと誓いったが・・・前後編
 「スイ水の合戦」 劉邦は打倒項羽の軍を起こす。漢軍56万に対し項羽は3万を率いて・・・
12巻
 「背水の陣」 漢軍では韓信が軍を統率する事になる。天才・韓信の軍略が冴え渡る
 「離間の策」 また一人、楚から漢に走る者が出る。奇才・陳平の策謀が楚を震わせる
 「四面楚歌」 威容を誇った楚も次第に漢軍に圧倒されていく。項羽は漢軍の包囲の中・・・
13巻
 「淮陰侯韓信」 漢の世となり劉邦は皇帝になった。しかし功績多大な韓信には災いが・・・
 「禍、これより始まらん」 建国の功臣・彭越、黥布、蕭何。それぞれの最期。
 「後継者争い」 劉邦はついに他界する。呂后と戚姫、二人の女が世継ぎをめぐり争う
 「呂后専横」 呂后は一族の者を重職につけ、また劉氏の王たちを殺害していく
14巻
 「呂氏の陰謀」 呂后の死後帝位を狙う呂一族に、劉氏や旧臣たちがが立ちあがる
 「呂氏誅伐」 劉邦時代の臣・陳平、周勃を中心についに反呂の兵が起こる。
 「栄光と恐怖」 呂氏の乱も収まり、新帝も即位する。周勃は位人臣を極めるが・・・
 「直言居士・袁オウ」 文帝の時代、皇帝や王に対してもはばからず直諫する官吏・袁オウ。
15巻
 「呉楚七国の乱」 文帝の時代、諸王の力を削ぐ政策が晁錯によって行われる・・・前後編
 「大単于冒頓」 漢の地を離れ、北方の匈奴の物語。英雄・冒頓が諸民族を統合していく
 「禍の男」 望まぬ任務で匈奴の地に送られた為、「漢に禍をもたらす」と誓った男・中行説


殷周伝説 著:横山光輝
横山光輝先生の作家人生最後の連載作品となった本作は封神演義の超横光解釈版とも
言うべき作品です。

神仙世界は関わりには出ず(女カたちは別)、あくまで人間界の王侯たちの争いと地上にある
山々で修行した道士たちが主に活躍するのが特徴です。
宝貝のような物は有るものの、あくまでそれも武具の一種、妖術や幻術などを使う者もいます
が、科学的な説明をつけられるものは種明かしがされていたり。
私の好きな人物、鄭倫のように術を使う設定すら無くなっている人物も多々います。

かと言って作品自体が力無いものになっているのかと言うとそんな事は決して有りません。
殷の皇子たちの亡命後の行く末の描き方などがかなり大胆なアレンジになっていたり、
全体にあくまで人に重きを置いた描き方になっているように思われました。

月イチペースでの単行本刊行中に不慮の事故で横山先生が亡くなられ、「これが最後の作品に
なってしまわれたんだな」と寂しい思いで単行本を集めることになったのを今でも憶えています。