北宋風雲伝 著:滝口琳々
中国宋代を舞台とした公案侠義小説「三侠五義」という作品があります。
青天と言われる名裁判官・名宰相の包拯が権力にも屈せず正義の裁きを下し、
彼に惹かれた侠客たちが大活躍するといった物語ですが、本作はその物語を
素材にしたマンガです。

偶然本屋で目にとまり、タイトルが気になって紹介を読んでみると、なんとも珍しい
北宋時代のマンガではないですか。
で、読んでみるとこれがまた面白い!
絵はバリバリ少女マンガなので、私的にはちょっと(最初は)ニガテかなと思ったん
ですが、でも物語は本格的な中国史モノです。
服装や、小物、建物なんかも考証がしっかりされて描かれてるみたいで大変
見ごたえがあります。
また物語が進むにつれて、登場キャラたちも生き生きしてきまして少女マンガらしく
恋愛話もガシガシ入ってきたりします。
主人公格の展昭やヒロイン月華も良いんですが、サブキャラ好きの伊谷としましては、
四勇士と言われる、王朝・馬漢・張龍・趙虎とかがお気に入りです。
ですんで張龍がメインをはっている第19話「偸御剣」なんかは面白かったですね。

「三侠五義」を題材にしていると言う珍しさだけでなく、しっかり楽しめる作品と思います。
ただ残念なのはこのマンガを読んでも「三侠五義」の訳本がなかなか手に入りにくい
と言うことでしょうか。
でもお勧めですよ!



沈夫人の料理人 著:深巳琳子
中国明代が舞台のお話です。

毎回々々『劉家の奥方の沈夫人は何より食べる事の好きな女性であった』と言う
ナレーションから始まるのですが、この沈夫人というのが本当に良いキャラしてます!
劉家というなかなか大きなお屋敷の若奥様の沈氏は、大変な美食家なお人。
それだけなら良かったのですが、人が困っている顔を見るのも美味しい料理を
食べるのと同じぐらい好きという迷惑な質。
そして彼女は退屈を持て余していました。

そんなキッツイ奥様に(正しくは劉家に)お仕えしている料理人の李三は、沈夫人こそは
大変よく出来たお人、女性の鏡と思い込んでいるからまた幸せです。
李三は気は弱く、大変鈍い質ですが料理の腕は確かに一級。
沈夫人にとって李三こそはまさに理想の料理人。
なにせこの李三は美味しい料理は作れるわ、少し水を当てればすぐにこの世の
終わりであるかのように思い詰めるわ、と全く飽きが来ない。

なので、今日も沈夫人は李三に無理難題や、謎掛けのようなメニューを作らせる
のです。
李三にすれば調理して奥様が食べている間は、ご希望に添えているのかとヒヤヒヤ
ドキドキ。

それがわかっているからこそ沈夫人もすぐには料理を褒めません。
どこかに難癖をつけて李三を散々にこき下ろしてから、最後に
「美味しいお料理だこと、やっぱりお前は一流の料理人だねぇ」
と天使のような笑みで李三を労るのです。

周りから見ていると遊ばれている、玩具にされているとわかるんですが当の李三は
「あぁ奥様ありがとうございます。これからはもっと精進致します」
とより一層沈夫人への奉公心を高めるのでした。

このマンガいろいろなコピーが付いているのですが、どれも面白い!
・中華料理の一皿に立ちのぼる妖艶なる主従関係!
・欲望に忠実すぎる、奥様の舌!
・時は明代中国。奥様は退屈していたーー「私に何を食べさせてくれるの?」
などなど、極めつけは
・美食のエロス!
ですね(笑)



色歌 著:新伊秀策
独特のタッチで戦国〜前漢を舞台にした物語の短編集です。

全7作で、各タイトルは
「朱命の歌」「藍空の歌」「黄砂の歌」「緑木の歌」「白寂の歌」「玄天の歌」「草青の歌」
と色の付いたものになっています。(玄=黒ですね)

それぞれの物語は、夫婦の話であったり、親子の話であったり、男の友情の話であったりと
じつに多彩であります。
登場人物も朱亥・李信・李陵と「史記」での有名な人物が多いんですが、画力の高さもさる事
ながら、キャラクターが実に格好良く・魅力的に描かれています。

個人的には「玄天の歌」が好みでしょうか。秦の名将・李信とその師・豫光の話です。

本作品はモーニングで2003〜2004年に発表されていたものでして、私は雑誌掲載時から
「うぉお!凄い中国史作家が現れたーーー!!!」
と狂喜していました。
今回一冊の単行本としてまとめられたのが本当に嬉しいです。
皆さんぜひ読んでみてください。



墨戯王べいふつ 著:佐々木泉
米フツ(くさかんむり+市)字は元章、生1051〜没1107。
北宋末の書家であり、画家、そして鑑賞家。

と言う中国の文化史に名を輝かす『オッチャン』が主人公の漫画です。
漫画内の米フツは書画の腕は確か、鑑定眼もたつ一代の有名人。しかし何よりも知れ渡っている
のは、収集家としての悪名。
曰く
「名品を得るためにストーカーまがいの事もする」
「奇行の多い変人で免職続き」
と実に惨憺たるもの。
しかもヒゲの手入れもせず、髪もクシとかずと言った、およそ文化人とは言い難い風体。

そんな米フツの周りで起こる物語が描かれております。
偏屈・頑固な米フツですが、事ある時は機転を利かせ思いやりをみせたりするので読後は
実に楽しい気分になれる一冊です。

また徽宗こと趙佶、水滸伝でもお馴染みの妓女・李師師、米フツと名を並べる画家王シン(言+先)
米フツの子にしてやはり書画家・米友仁と、宋代ファンにはたまらない人物たちも登場してます。