文天祥の生涯 殉国節義の人 著:雑喉潤
南宋末の宰相・文天祥についての一冊です。
元の皇帝・フビライに捕らえられ、3年に亘る登用勧告を拒みつづけた挙句に、意を得て
処刑されたという忠義の人物です。

本書では、一番にその処刑の場面がえがかれており、それからさかのぼって生い立ちや
成長、そして周囲の時代の流れが説明されていくという面白い構成になっています。
科挙の主席合格者という才人だけに、文天祥は多くの言葉や詩を残していますが、本書
ではそれらを紹介、説明しながら場面々々の解説をしてくれており、下手な小説などよりも
ずっと“人間文天祥”を感じさせられるようになっています。
もちろん文天祥について述べながらも、その時代の事件や人物たちについても丁寧な説明
がなされているので、南宋末を読み解くにも充分な本ではないでしょうか。

私はこの本の存在を知り、書店を多く回ったのですが見つけられず、結局は取り寄せを頼
んで入手しました。
それからも店頭では一度も見たことが無いので、欲しいと思われた方は最初から取り寄せを
頼まれるのが良いかと思いますよ。



劉裕 江南の英雄宋の武帝 著:吉川忠夫
六朝時代の宋の皇帝・劉裕をとりあげたと言う実にマニアックな、もとい珍しい一冊です。

劉裕(363〜422) 字は徳與。眼光鋭く、眉はつりあがり、7尺6寸(約180cm)という風貌で、
前王朝の東晋を一時簒奪した桓玄も「劉裕はまさに人傑である」と嘆息したと言います。
貧しい生まれながらも武人として成り上がり、ついには皇帝の座にまで就いたこの人物の
生涯と、その時代を詳しく読める貴重な本です。

桓玄を討ち、東晋王朝をよみがえらせ、その下で南燕朝・後秦朝を征討し、宋王の位に
登り、さらには東晋から禅譲を受け天子の位に就くという波乱の一生。
貴族の時代と言われる六朝時代で武力を示して貴族に睨みを利かせ、我が物顔の地方
豪族をも抑え込むと言う政治手腕を持っていた彼ですが、即位後は新王朝の先行きに多
いな不安を抱いていたと言います。
本書内の“死”の章ではその痛ましさが詳しく書かれています。

もとは「中国人物叢書」シリーズの一冊だったようですが、私が読んだのは中公文庫版です。
こんなところに書く事でもないですが、中公文庫は大好きです。面白い本が本当に多いですよ!



洪秀全と太平天国 著:小島晋治
広く長く深い中国の歴史。私はそれまで読んだ事の無かった時代に小説などで手をつけ
ると、見方が偏らないようにと、他の本も読むようにしているのです。
陳舜臣氏の「太平天国」を読んだ時もそうでした。この時代については全くの無知だった
ので小説「太平天国」はとても面白く読み進めたのですが、例によって「他の本も読むか」
って思い、探しついて手にしたのがこの「洪秀全と太平天国」でした。

小説ではどこが資料に基づいていて、どこが創作の部分なのかってのがわかりにくいん
ですが(知らない時代なら余計にですね)、こういう本なら丁寧に「『天父聖旨』によると〜」
と言うように参考文献からきちんと紹介されているので安心して読めます。
で、この本を読んでいると実の多くの資料を基に書かれてるなってのが分かりますね(偉
そうですか?)。
なかでもよく紹介されている清朝側の記録の「賊情彙簒」は面白い記述が多いです。
逆に太平天国側の記録や文書は理想を説いた物や、衆人を昂揚させようとした物など、
その時々の太平天国の状況によって訴え方が変わっているのが分かり、面白いですね。

岩波書店の本は沢山読んできてますが、この岩波現代文庫ってのは初めて手にしました。
文庫ながら紙もカバーも印刷もキレイで良い本ですね。
まぁそれなりなお値段になってますが(文庫約300Pで\1,100)。
ハードカバーの「中国の英傑 洪秀全−ユートピアめざして−」ってのも同内容なんです
ね。気付かずに買いそうになりましたよ。



明末の風雲児 鄭成功 著:寺尾善雄
そのタイトル通り明末清初の人物・鄭成功の事跡を書かれた一冊です。
小説ではなく学術書とか研究書とかそういう感じです。

著者の御同僚の方が鄭成功の弟(田川七左衛門)の子孫で、鄭成功について資料をまとめて
書き進められていたが、中途にして亡くなられた為に著者が後を継いで書き上げられたと言う
ことです(はしがきによる)。

豊富な資料を参考に、誕生から明朝への仕官、各地の転戦と台湾奪取、そしてその死後の鄭氏
動向とまとめられています。

最終章では昭和30年代の鄭氏の子孫の方まで紹介されており、驚きとともに歴史のつながりと
でも言うものを深く感じさせられました(本書は1986年発行)。
ネット古書店などでは見つけやすいと思いますので、鄭成功について詳しく知りたいと言う時は
間違いなくこの一冊を読まれるのが良いと思います。


司馬炎 西晋の武帝 著:福原啓郎
白帝社の中国歴史人物選シリーズの第3巻です。

いわゆる三国志の後の時代、魏王朝の次の晋王朝(西晋)について書かれた研究書です。
書名には「司馬炎」と初代皇帝である人物の名が掲げられていますが、内容としてはその
祖父である司馬懿についての記述から始まり、第四代皇帝の愍帝についてまでが書かれ
ています。

構成と、主な内容は、

河内の司馬氏・・・司馬懿の祖父・司馬儁と父・司馬防、兄・司馬朗について。魏晋の官制
 について

司馬懿・・・曹操への出仕、諸葛亮の北伐防衛、公孫淵征伐、対曹爽とクーデター、王リョウ
 の密謀

司馬師・司馬昭・・・曹芳の廃位と曹髦即位、カン丘倹の挙兵、諸葛誕の挙兵、蜀漢平定、
 晋王即位

司馬炎(上・下)・・・魏からの禅譲、呉の平定、実弟・司馬ユウとの軋轢、皇后楊艶と楊シ、
 武帝の後宮

恵帝(司馬衷、上・下)・・・外戚楊駿の専権と賈皇后のクーデター、汝南王司馬亮と楚王
 司馬イの誅殺、 宗室の動向、賈皇后と愍懐太子の対立、趙王司馬倫のクーデター、斉
 王・成都王・河間王の対司馬 倫決起、斉王と長沙王の対立、東海王司馬越の挙兵。

懐帝と愍帝・・・匈奴・烏丸・鮮卑・羌族ら、益州での成漢建国、荊州の張昌の反乱、并州
 での劉淵の 前趙建国、長安陥落から琅邪王・司馬睿の江南での晋再建。

といったものです。
キーは武帝司馬炎よりも、恵帝の皇后・賈氏と、いわゆる八王の乱についてのところでは
ないかと思ってしまいますね。

この辺りの時代や事件について詳しく書かれている本は少ないので、結構ありがたく読め
るのではないでしょうか。

余談ですが、最初に書いたように「中国歴史人物選」というシリーズなんですが、他の時代
でも范仲淹や林則徐など、読んでみたい人物が結構取り上げられているので、このシリー
ズは集めてしまうかもしれません。