香乱記 著:宮城谷昌光
秦末から漢帝国建国までの争乱時代に斉国を興し、その宰相となっていた田横の物語です。
まぁカンタンに言うと、項羽と劉邦の時代を別の視点から書いた小説ってコトになりますね。

始皇帝によって統一された国家が瞬く間に分裂、各国が割拠していく中で田横も故国・斉を
復興させてひとつの理想を遂げようとします。それは「他国への不可侵」でした。
秦統一以前のような各国が並立する世を基本として、それぞれが周囲の国を侵すことが無い
という世界を夢見ながら、楚の項羽・漢の劉邦といった大きな力や謀略に立ち向かう田横と
彼に従う臣下・協力者たちが魅力的にえがかれています。

実は宮城谷氏の長編作品を読むのは初めてなんですが、登場人物たちがとても魅力的に
えがかれていたり、個性立っていたりしていたのが印象的でした。
それは、ひとつは田横に惹かれ、彼の力になるために従う斉国の臣たち。
もうひとつは項羽や劉邦といった有名な人物たちが他作品とは違った、新しい(と言って決して
奇をてらったものでは無い)書かれ方をしていた事などです。
特に張耳と陳余の人物像は今までのイメージを真逆にさせられるものでした。理想に生きる
純真な陳余と、リアリスト(あまり良くない意味で)の張耳なんて今まで無かったものですよ。

伊谷の本作品中のお気に入り人物は魏王咎です。国が滅びるにあたり王たる自分の命を
差し出し、遺民の安全を願う。カッコよすぎじゃないですか。



飛竜伝 宋の太祖 趙匡胤 著:小前亮
唐末に起こった混乱の後に、五代十国とよばれる100年にわたる分裂時代がありました。
その五代十国時代を制し、南北三百年に亘る世界帝国・宋を建国した趙匡胤の物語です。

まぁ多少、時代小説な感じもありますが(どれだけ史実に沿っているのか寡聞のため判断が
出来ません)、趙匡胤の生涯を読める一冊としてなかなか貴重であると思います。
正直、本屋で見つけて飛びついてしまいました。
五代の特徴である義子(養子)制度が分かりやすいので、その点も読んでみる価値ありかと
思います。
あと終盤で北漢の名将である、アノ「無敵将軍」(バレバレですね)も出てきたんで素直に嬉し
かったです。チョイ役でしたけどね。
なんか後半がサクサクっと進み過ぎて「いつの間に趙匡胤そんなに年取ったの!?」って驚か
されたりもしましたが、まぁきちんと物語として完結させられているのでOKです。
趙光義がとっても素直な弟キャラしててなんか可愛かったです(なんだこの感想)。
趙普もカッコ良かったです。趙普の出てる小説読んだのって初めてかもしれません。

なんか箇条書きみたいになってしまいましたが、なかなかレアな時代を扱った一作だと思い
ますので、宋初好きまたは気になってると言う人にはお勧めしたいと思います。



范蠡 越王句践の名参謀 著:立石優
周王朝の権力が弱まり諸侯が乱立した春秋時代末期に、南方に興った越国にて王を支え続けた
名臣・范蠡の物語です。
范蠡が身ひとつで世に出ようとするところから、越国に仕えて功績を上げていく様、そしてその晩年
までが書かれてます(まぁ史記の記事も多くはないからフィクションもかなりあるっぽいですがあくま
でも小説ってことで)。

物語としてしっかりまとめられていて、適所で国や人物の説明もちゃんとありますので、小説として
あまりこの時代に詳しくない人でも気軽に読めるかと思います。人物ごとのキャラクターもちゃんと
立ってますので。
個人的には文種なんかも好きですよ。国家の名脇役と言いますか。心強い後方支援の人ってのが
好きなんですね。

PHP文庫なんですが、表紙のイラストと作品中の范蠡のイメージがちょっと合ってないような・・・。
この小説ではもうちょっとさわやかっぽい印象を受けたんですが。イラストの雰囲気も渋くて好き
ですけどね。