水滸後伝 著:陳忱 訳:鳥居久靖
中国四大奇書のひとつ水滸伝の続編的作品です。
存在は知りつつも、読む機会に恵まれず(というか本自体を目にすることが出来ず)に
いたのですが偶然古書店で発見、定価が1200円×3冊=3600円な訳なんですが、
そこはやはり価値あるもの。
3冊セットで5000円。
コレを高いと見るか安いと判断するかは、個々人にお任せするとして、何はともあれ
私は購入したわけです。(いずれ何処かの出版社が出してくれることを期待しつつも、
待ちきれずに)

書評の方ですね。
いや、コレは面白い。
本編は皆様御存知のとおり、梁山泊に集いし義士一〇八人もある者は戦死し、ある者は
その旗のもとを去り、そして悲しき哉 悔しき哉 宋公明・盧俊義らは奸臣に陥れられ
敢え無い最後を・・・。
また義侠心溢れる李逵・花栄・呉用ら兄弟もその後を追いました・・・。
皇帝のちに彼らの赤心明らかなるを知るも、時既に遅く、只々悔ゆるばかり。
みたいな哀しい結末なんですが、「〜後伝」は違います。
とりあえず梁山泊の生き残り衆、それから仲間に加わった人達みんなまとめて幸せに
なりましょう!的な終わり方です。

で、具体的な内容なんですけど、まぁ割と有名でしょうか主人公は混江竜・李俊です。
もちろん本編の方での一〇八人の生き残りも皆登場してくれます。
公孫勝・柴進・燕青・楽和・裴宣・朱武・蕭譲・金大堅・安道全・皇甫端・宋清・載宗・樊瑞
関勝・呼延灼・李応・朱仝・阮小七・黄信・孫立・童威・童猛・蒋敬・穆春・楊林・鄒潤
孫新・杜興・蔡慶・凌振・顧大嫂
たちですね。
あと、武松も少しだけ出てくるんですがそのくだりは、本当に「あぁ、これは水滸伝の続編
なんだなぁ。」と感じさせてくれました。 なかなか物悲しかったですね。
他に本編に登場していて、引き続き出ている人物と言うと
王進・欒廷玉・聞煥章・扈成・李師師やウンカ(本編で武松と一緒に西門慶を討った)
なんかも出てきます。

なかなか皆すごい活躍をしてくれたりして、地味に見えがちな(失礼)メンバーですが
しっかり物語を盛り上げてくれてます。
特に楽和は呉用に匹敵するのでは、と思うほどの軍師振りを見せてくれたりします。
穆春なんかも、石秀かと思うような侠客っぽさ、そして腕の立ちぶり。ちょっと見る目が
変わりました。
樊瑞もすっかり一流の道士(妖術士?)になっていて大活躍。頼れる男になってます。

さて、良いところばかりを紹介してきましたが最後に個人的に気になったトコ
なんかたま〜に『大江戸物語』みたいな講釈っぷりがでるのがげんなりでした。
具体的に言うと「これこそ敵は本能寺の計なのです」とか(「掎角の計」とか言って
くれればね)そういうのがちょっと・・・。

いやしかし水滸伝好きの方にはやっぱりお勧めしたい一作です。
お互いに(少々)年をとった燕青と李師師が再会した場面なんかは必見ですよ。
なかなか目にする機会も薄いかと思いますが、図書館ででも見かけられたら是非一読を
お勧めします。価値ありですよ。 
ところでこの東洋文庫以外に出版元ってあるのかなぁ、今読めそうなので・・・。



楊家将 著:北方謙三
中国宋代、北方の騎馬民族国家・遼国の猛攻から国家を守るために身命を投げ打って
戦った楊一族の悲劇の物語です。
「楊家将」も三国志などのような演義小説で、楊一族の5世代に亘る壮大な物語なんです
が、北方楊家将は第1世代の楊業と7人の息子たちの時代が描かれています。

そして楊一族の前に立ちはだかる遼国随一の武人・耶律休哥。
白髪・白髯のために“白き狼”と呼ばれている孤高の将です。
他にも、遼国を束ねる女傑・蕭太后、その蕭太后に心酔する知恵者・王欽招吉、
軍の重鎮・耶律奚低、同世代の耶律休哥にライバル心を抱く遼の軍人・耶律斜軫。と、
魅力的な人物揃いです。

楊業の7人の息子達もそれぞれ個性的です。
弟たちの世話を見つつ父の代わりも果たす長男・延平、
兄弟たちと打ち解けないどこか影のある四男・延朗、
兵士の心を掴む戦下手な六男・延昭、
血気溢れる末弟の七男・延嗣。
特にこの4人が物語中で活躍します。

物語は章ごとに、楊業・耶律休哥・楊延平・延朗・延昭・耶律奚低・・・と、主観が変わって
書かれていて飽きる事無く読みつづけられます。
(詳しくは書けないですが、続編を期待させられる終わり方になっています)

北方氏の作品をキチンと読んだのは、本作が初めてだったんですが、なるほど噂通り
ハードボイルドな作品だ と思わされましたね。

追記:
この「楊家将」という作品、(伊谷もですが)BSで放送されていた中国製の実写の
連ドラで知った人が多いと思うんですね。
いやー、アレは面白かったですよ。DVDとかで発売されないですかねー。吹き替え音声は
そのままで。
欲を言うと田中芳樹氏が翻訳を早く出して、横山光輝氏が漫画化して、コーエーがゲームを
出せば大ブーム到来ですよ。きっと。
この際どれかひとつでも良いんですがね。
「楊家将」もっとメジャーにならないかな・・・。



血涙 著:北方謙三
北方楊家将の続編であるこの作品、タイトルは「血涙 新楊家将」と楊家将の方
が新と付いて副題になっております。
ここから紹介文なわけですが、「楊家将」のネタバレを含みますので、前作の結
末等を知りたくないと言う人はご注意下さい。

前作のラストで味方の背信にあって楊業が戦死し、兄弟の多くも討ち死にや行方
不明となった楊家。
生き残って帰還した六郎と七郎の楊家軍再興から物語が始まると共に、やはり
今作も章ごとに人物の視点が切り替わって語られていきます。
遼側の視点ももちろんあり、こちらは主に白き狼・耶律休哥によって語られますが
もうひとり重要な人物が出てきます。
元は宋軍の将校でしたが耶律休哥との戦闘に敗北し、記憶喪失となっていた男。
前作を読んだ人には正体はバレバレですが、彼は石幻果という遼での名を与え
られ、耶律休哥に並ぶ将となっていきます

老いを感じていく耶律休哥、六郎や七郎と戦うこととなる石幻果、宋と遼の両国
の国主の悲願と重臣たちの思惑。
今作も様々なドラマが描かれていますが、前作に比べると終始に物悲しい雰囲気
が漂っているように思われました。
前作の結末は続編を予感させられるものでしたが、さすがに今回は完結って感じ
で疑いようがないです。

少し面白かったのが、楊延昭が母親から亡父の打った剣だと言って、ひと振りの
剣を渡されます。それがあの!っと、何かは本編を読んでのお楽しみと言うこと
で(わかってしまいましたかね?)。

良くない意味で気になる点も幾つかありましたが、特に言いたいのは楊家の子供
たちの名前について!楊延平の息子が延光、延昭の息子が延礼って名付け方は納
得いかなかったです!日本の戦国武将じゃないんだから・・・。
原典にあわせて宗保とかでは駄目だったんだろうか、と。


元宋興亡史 著:森下翠
そのタイトル通り南宋末をえがいた一作。
モンゴル帝国について簡単に語り、宋の南遷(南宋の誕生)、そしてその腐敗とモンゴル
帝国内の相続での悶着と元朝の成立。そして南宋の滅亡、ですね。

作り的には小説と言いますか、うーーん歴史ムックの中の読み物を長くしたような淡々と
した内容でした。わかりやすいといえばわかりやすいですし、読みやすいですけどね。
ただ、田中芳樹氏の「海嘯」と舞台が丸カブリなので先に田中氏の作品を読んでると
物足りなく感じるかもしれません(海嘯の方が小説的に盛り上がる様に書かれてますんで)。
しかしこれはこれで、人物が出たときはエピソードからキチッと紹介してますし、途中々々で
地図が載せられていて見やすかったり親切な作りになってます。
好きな人物は、(ベタなところですが)文天祥ですねー。
あと、董文炳とかですね。
あ、モンゴルに背いた漢人軍閥の李壇って李全(井上祐美子氏「李家槍天下無敵」を読んで
みて下さい)の子供なんですね、知らなかったですわ。

あと、表紙イラストが正子公也氏の手によるフビライと文天祥。これがまたカッコイイです。



孔明の聖像 姜維戦記 著:田中文雄
三国志、蜀漢(魏や呉は『蜀』と呼びますが、劉備たちは自国を『漢』または『蜀漢』と称して
いました)の末期に奮闘した人物・姜維の物語です。
と言っても至極、演義に忠実な造りになっていまして、ごく僅かに登場するオリジナル
キャラも控えめな活躍におさまっています。
しかし本作での特筆すべき登場人物(?)は、タイトルにもなっている孔明像です。
孔明の死後、自分に課した役割の大きさや、政界での派閥抗争、主君との心の不通。
そういった事に心痛められるたびに姜維は孔明像に対峙し、師の声を心中に聞く事に
よって折れかけた志を保っていくのでした。

完全に姜維(蜀漢)の視線に寄って物語は進みますが、他国の重要な事件はきちんと
記されているので、孔明死後の三国志を読むには良いかと思われます。
と言うかこの時代の小説自体が珍しい訳ですが。

最後に辛口なコメントをしてしまいますが、亡国に際した悲劇の忠臣という事で
姜維と言う人物は好きなんですが、その功績は?という話になると評価は少し下がって
しまうかと思います。


怒涛のごとく 著:白石一郎
明末清初の人物、鄭成功の物語です。
陳舜臣氏の「旋風に告げよ」よりも物語のスタートが少しさかのぼり、鄭成功が産まれるところ
から話が始まります。
そして鄭成功が幼い時代も多く書かれており、父親・鄭芝竜がいかに力を持つに到ったかを詳
しく読むことが出来るのが本作の特徴のひとつかなと。文春文庫版だと上下巻になってますが、
表紙イラストも上巻は鄭芝竜で下巻は鄭成功になってますしね。

白石一郎氏は海洋モノを書くことで定評があるようですが、本作中で鄭成功が若い時に科挙を
受ける話なんかもあるんですが、その受験についての説明なんかも詳しくされており、結構勉強
になりましたよ。

あとは登場人物は極力、人数も出番も抑えられてる感じで、ホントに鄭成功の物語というような
書き方になってるなって感じました。
でも鄭芝竜・成功の二代に仕える武将・甘輝はめちゃめちゃカッコ良いです。

白石一郎氏の小説はこれで初めて読みましたが、良い意味でクセもなくとても読みやすかった
ですね。
鄭成功モノを読んでみたいけど、初めては何が良いかなって探してる人にはこの作品をお勧め
したいです。
先に書いたように鄭成功の誕生から始まり、その死によって物語が終わっていますので、生涯を
一通り読むことも出来ますので。